February 14, 2004

eye catch 元祖天才少女(2)


修論が終わったので久しぶりに趣味の本屋めぐりをしたのだけど、PBCで「Quipって邦楽誌になったんだ‥‥」とか思いながらCOOKIE SCENEの最新号を手にとったら、後ろから二人の男がやってきて、
「あ、ちょっとまって、これ(と、『米国音楽』を手に取る)」
「なにそれ」
「音楽雑誌。おれ音楽雑誌これだけ読んでんの。これだけ面白い」
「ふーん」
「ほかのはつまんねぇよ」
私はこの男を嬲り殺す方法を10くらい考えて、そのあと深呼吸をひとつしてその場を立ち去ったのですが、なぜこのような愚かな人間が『米国音楽』を読んでいるのでしょうか。まあ、こういう人種をひきつけやすい雑誌であることは想像つくわけですが。
そこは音楽雑誌の売り場であるわけで、周りにいる人間のほとんどは「『米国音楽』以外の雑誌はつまらない」とは思わないからそこにいるわけです。そんなことにも気づかないならその鈍感さと頭の悪さに腹が立つし、わかって言ってるならケンカを売られていると考えていいですよね?
まあ、周りの人間の問題は置いておくにしてもですね、相方の男は『米国音楽』の存在も知らないくらい、音楽雑誌に疎いわけですよ。当然どういう音楽雑誌がいいとか悪いとか、好きとか嫌いとかそういう批評軸を持たない人間ですよね。そういう人間に対してわざわざそんなことを言う必要があるのかって話で。「どういう雑誌?」と訊かれたら「かつて渋谷系と呼ばれていた音楽に代表されるようなオシャレなポップミュージックを取り扱う音楽雑誌だけどグラフィックデザインやファッションのコンテンツもある」というような答えをすべきで、何も知らない人間にただ「他の雑誌はクソでこれだけ面白い」というようなことを言うのはエゴの押し付けでしかありません。

とまあひとしきり腹が立ったわけですが、よく考えるとこれがもし、「オレはロッキング・オンしか読まない。それ以外の音楽雑誌はクソだ」とか言ってたら「青年、青いな。(プッ」とか一笑に付して終わりだったと思うのです。これだけ腹が立ったのは私自身、『米国音楽』に複雑な思いを抱いているからに他なりません。

私が『米国音楽』という雑誌の存在を知ったのは高校生のときでした。
当時私は増井編集長時代のロッキング・オンを毎月買って隅から隅まで読んでいたようなヤな高校生でした。自分ではある程度ROとは距離を置いて、冷静に眺めているつもりでしたがやっぱりある程度洗脳されていて、「痛快ウキウキ通り」とか言うやつはバカにせねばならないみたいな価値観を植えつけられていたと思います。だから当時流行していた渋谷系とかまったく分からず、カヒミ・カリィと野宮真貴の区別がつかない、というかつけようともしないありさまでした。
ところが当時英語の席が隣だった子が米国音楽に送った曲がサンプラーに収録されて大反響、デビューの運びとなり、カヒミ・カリィも大絶賛。CDの帯とか雑誌の評にはベックや嶺川貴子が引き合いに出される始末となり、ポカーンですよ。
その年私は楽器を触ったこともないようなド素人ばかり集めて学園祭でライブをやることになっていたのだけど、隣の枠でその子がライブをやるというので、米国音楽のレーベルの人が見に来るとか言う話になり。もちろん我々のライブを見に来るはずはなく、その子のライブ(だけ)を見にくるんだというのはわかってるけど、こっちはほんとにシャレでやってるだけなのに、レーベルの人とか言われたら萎えるよ。萎えるよ!!
しかもね、ワンマンじゃないけどクアトロでライブやってんの、その子。えっ、このあいだロングピッグスが超感動的なライブをしたあのハコですか? あそこで知り合いがライブをするんですか? ちょっとイミが分かりません。

これがUKっぽいギターポップとかをその子がやってたんなら、素直に悔しがったり、うらやましがったり、まあいろいろと反応の方法もあったんだと思う。でも、ローファイ宅録ノイズポップみたいのだったんですよ。正直、当時は聞いても理解できないだろうなぁと思いました。後輩とか同級生はその子のCDを買ってきて、「サインしてサインして」とか言ってたんだけど、私はどうしてもCDを買うことは出来なかった。「友達だから」という理由だけでCDを買うほどには深い知り合いではなかったし、日々CDを買う金をやりくりするのに多大な苦労を強いられている身としては、それなりに音楽的に興味のもてるものでなければ買う気がしなかったし、なにより、プライドが許さなかった。プライドって言うのはつまり、「私はオシャレ音楽を理解できないけれども、理解できないくせに嬉しがってCDを買って『良かったよ〜』とか言えるほどには音楽に対して不真面目ではない」というプライド。そしてきっとその子もそれを分かってくれるという淡い期待。結局、その子とその子の音楽活動について話したのはユニット名の由来について訊いただけ。つくづく自分は不器用な生き方をしていると思います。

その子はデビュー前にもよく昼休みにベランダで弾き語りとかしていたけど、そんなオリジナルの曲を作曲とかしてるとは全然思ってませんでした。私の通っていた高校は進学校だったから、普段は遊んでいても試験前になったらみんなそれなりに勉強していたし、そうやってみんな真面目に勉強して普通に進学していくんだと思っていた私は、多分他の子も放課後は色々な顔があるんだ、とカルチャーショックを受けました。やべぇ、私何にもしてないよ。なんて私は凡庸なんだと。勉強しか能がないダメ人間だと。
その子は米国音楽の編集長の川崎大介(たしか元ROの人。それがまた複雑な思いを抱かせます)にめちゃめちゃ気に入られてて、巻末に編集長日記みたいのがあったんだけどそれに毎号その子の近況みたいのを書いてんの。川崎大介が。
私はその子に直接「最近音楽活動どうなの」とか訊けるような仲ではなかったので、それをこっそり読んでその子が学校の外でなにをやってるのか知ろうとしてました。大学入ってちょっとしたくらいまではアメリカでレコーディングとかライブとかなんとかあらすげーなーみたいな話が載ってたり、CRJチャートで話題になったとか風の噂で伝え聞いたりしてたんですが、多分今はもう音楽活動してないんでしょうね。米国音楽にも載ってないし。大学はいくら憧れても入れない人がいっぱいいる某大学の某学部に入りまして、音楽活動と両方は無理だろう、どっちをやるんだろうと気になっていたのですが、分からずじまいです。
今でもその子のユニット名でネット検索するとかなりの数のサイトがヒットします。
それでも、音楽で食おうとはしなかった、あるは食えなかったのだな、とかその原因とか考え始めると、自分ももう少し早いうちから自己欺瞞せずに人生を考えるべきだったのではないかと反省することしきりです。
そういうことを思い出させる雑誌です。米国音楽は。だから一度も買ったことありません。

Posted by psi at 09:06 PM | eye catch TrackBack (0)
eye catch Post a comment









Remember personal info?






eye catch Comments

live cams dude

Posted by: live sex at August 1, 2004 07:03 AM

お持ちでしたか。さすがですね〜
いや、あんまり驚きませんが。
当時渋谷系とかをチェックしてた人なら名前くらいは聞いたことあると思いますよ〜
あのジャケ写真が普段とあまりに違くてまた騙された感が一杯だった訳ですが。
こんな愚痴りみたいなエントリを面白いと言っていただけて恥ずかしいやら嬉しいやら。

Posted by: psi at February 25, 2004 02:43 AM

おれもたぶんその天才少女のCD持ってます。意外な事実に驚いたと同時に読み物としても面白かったです。このエントリー。

Posted by: オチ at February 23, 2004 07:33 PM