July 03, 2003

eye catch 第十四回


振り返ると灰色の髪の毛のうっとおしそうな青年が立っている。
腰を屈めた状態から振り返ったせいで、下から覗き込むようにねめつける格好になったが、その瞬間青年が明らかにおびえたようなそぶりをみせた。その目つきをみた瞬間夜紫野はこの青年が何者か気付いた。夜紫野が幼少のみぎり、舎弟…いや、幼なじみだった同朋、昂俊である。
「なんだ昂俊か。よく私だとわかったな。最後に会ったのは十年以上前だろう?」
昂俊の母親は金波宮で働いていたが、予王舒覚に追放されて雁へ亡命していた。そのとき仙籍も剥奪されたのだが、当時と変わらない昂俊の「ええとこのボン」な様子をみているとその後もこの親子はいい暮らしをしてきたらしい。まあ、たとえ金がなくてもおっとりまったり暮らすのがこいつの母親と言う人間だ。
「わかるよ。その眉間にしわを寄せて考える癖、変わってないよね。中にいたお店の人が怖がって硬直してたよ」
なにがそんなに恥ずかしいのか昂俊はいつもはにかみながらしゃべる。
「うるさいな。まあ、とにかく茶でも飲むか。暇なんだろ?」
昂俊はうれしそうにうなづく。こいつMの気があるんじゃないかと時折心配になる。
子供の頃も、騎獣ごっこの騎獣にしてやったり、青鳥ごっこの青鳥にしてやったり、挙げ句の果てには半獣ごっこなどといって無理矢理服を脱がせて泣かせたりしたが、次また「遊びに行くぞ」と誘うと素でうれしそうにした。母親も息子がどんな遊びをしているのか知らぬはずはなかろうに、夜紫野に会うと本気で「いつも昂俊と遊んで下さってありがとう。これからも頼むわね」と笑うのだ。電波な親子だ。
近くの喫茶店に入り、腰をかける。隣の席の女二人がちらりと昂俊を見るのが分かった。
「あー、おねいちゃん!桂花茶ふたつ!」
面倒くさいので昂俊の分も勝手に決めた。昂俊はニコニコと笑っている。
こんな薄気味悪い奴、どこがいいんだ。
と、隣の女に聞きたかったが我慢した。
確かに背も伸びて、顔も整っている。まあ、美青年と言って差し支えあるまい。
中身を知らん奴の幸せをいちいち破壊して回るのも魅力的ではあるが、そこまで暇ではない。
「んで、お前なんで慶に戻ってきたんだ?」
「それがね」
昂俊は運ばれてきた茶に口をつけた。
「匠師になろうと思って」
ぶっ、と夜紫野は茶を吹き出した。
夜紫野の知っている匠師は皆筋肉質の豪気なおっちゃんばかりだ。
その細腕でどうやって鉄を打つんだい。
昂俊は吹きかけられた茶を布巾で拭ってなおニコニコしている。
「しっ、匠師なら雁でもなれるだろう」
「雁は賃金が安いんだ。その割には物価が高くて。福祉政策がしっかりしてるからその他に関してはね…」
「ああ、免許代を稼ぎにきたのか」
「そう言うこと。あと、いろいろな国のいろいろな街を見て回らないと。どこで良い材料が、より安価に手に入るのかとかも調べないとね」
「おまえ…大人になったなぁ」
夜紫野は本気で感心した。
「こっちへは一人で来たの?」
「うん。あ、烏号から清谷までは何人か仲間で来たけど、それ以外は」
「妖魔出なかったの?青海では強い妖魔が出ると聞いたけど」
「でたよ。でも蠱雕じゃなかった。PTもいたし、共闘も会ったから平気だったよ。でも、清谷からここに来るまで一回シンヨウに会ってかなわなかったけどね…はは」
夜紫野は再び本気で感心した。
なかなか気骨のある奴だ。小さい時鍛えてやったせいかもしれない。
「よし、お前これ持ってけ」
夜紫野は自分の有り金のほとんどを卓子に置いた。
「いいのかい?」
「お前、子供の頃私が何回お前から全財産巻き上げたと思ってるんだ?」
ははっ、と昂俊は笑った。
「そのかわり、お前匠師になったら私に武器作れよ。出来が良ければ専属匠師にしてやってもいい」
「うん、わかった」
夜紫野は席を立って店を出た。
「ありがとう!」
背後から昂俊が叫ぶのが聞こえた。

Posted by psi at 11:10 PM | eye catch TrackBack (0)
eye catch Post a comment









Remember personal info?






eye catch Comments